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辺野古埋立地用途変更等承認代執行訴訟

1  決定日・裁判体

最高裁判所第一小法廷令和6年2月29日決定

2 事案の概要

 沖縄防衛局が、辺野古の埋立地の用途及び設計の概要に係る変更の承認の申請をしたところ、沖縄県知事が変更を承認しない旨の処分をし、国土交通大臣よりこれを取り消す旨の裁決や変更申請に係る変更の承認をするよう是正の指示を受けた後も変更承認をしないことから、国土交通大臣が、沖縄県知事に対し、地方自治法245条の8第3項に基づき、変更申請を承認すべきこと命じる旨の裁判を求めた。

(争点:同法245条の8第1項所定の要件(①「法令の規定…に違反」、②本項から第8項までに規定する措置(代執行等)以外の方法で是正を図ることが困難」(補充性)、③「それを放置することにより著しく公益を害することが明らか」(公益侵害))の該当性)

3 関与した裁判官

⑴ 国民審査の対象となる裁判官 

宮川美津子

⑵ そのほかの裁判官

裁判長裁判官 岡正晶、裁判官 深山卓也、裁判官 安浪亮介、裁判官 堺徹

(全員一致)

4  決定要旨

 沖縄県知事の上告受理申立てを不受理とする(上告不受理)

5  人権・憲法の観点からの分析と評価

 ⑴  裁判所の役割と審理

 最高裁判所は、審理を開くことなく、令和5年9月4日第一小法廷判決(以下「令和5年最判」という)に続き、国の関与(是正の指示)が公有水面埋立法の要件に照らして適法なのか、その実質的・実体的審査(実体審理)を回避した。すなわち、令和5年最判は、軟弱地盤の追加設計等、公有水面埋立法の要件充足性が争点になっていたところ、裁決の拘束力(行政不服審査法52条)を唯一の根拠に、この裁決の趣旨に従わない沖縄県知事の行為は違法であり、これに対する「是正の指示」は適法であるとした。本件において、実質的審査を欠いた令和5年最判の「確定」をもって法令違反を認定した原審(令和5年12月20日福岡高裁那覇支部判決)の法令解釈が争われていた。裁判所がこの実体審理を怠れば、法的問題を解決するというその役割を放棄することになり、「司法の存在理由」が問われることになる。

 ⑵ 地方自治(自治権)の保障の意義

 平成11(1999)年の地方分権改革により、国と地方の「対等・協力の関係」に鑑み、国と地方の利害の調整・紛争処理にかかる解決方法として、機関委任事務にかかる国の包括的指揮監督が否定され、国の法定関与制度が創設された。この制度では、「代執行等」は、「是正の指示」等の「行政的関与」による終局的解決ではなく、裁判所による「司法的関与」を介在させた解決方法として位置付けられた結果、関与者である国の優越が否定され、代執行訴訟における裁判所の判断を待つ必要がある。本件は、地方自治法改正後で初めての代執行訴訟であり、要件・手続の適法性についての重要性から最高裁判所の判断が期待されていた。ところが、「代執行等」において、最高裁判所が形式的審査のみで実体審理を回避した結果、沖縄県知事は自らの法定受託事務の管理・執行権限の適法性・正当性を法廷で主張し、国の関与の誤りを是正する最後の機会を失った。憲法が保障する地方自治(自治権)の保障や「地方自治の本旨」(憲法92条)に基いて定められた地方自治法の改正の意義が没却されてはならない。

⑶  沖縄県民の民意と基本的人権の侵害

 平成25(2013)年の承認処分後、3回連続して辺野古新基地建設反対を公約とする沖縄県知事が選出され、平成31(2019)年の同基地建設の是非のみを問う県民投票において、約72%、約43万人の反対の民意が示された。沖縄県民の民意は、「沖縄戦から一貫して沖縄県や沖縄県民に課されてきた重い基地負担と、自己決定を否定され続けてきた歴史的経緯」等に由来する。他方、原審は、こうした歴史的経緯等を背景とした「沖縄県民の心情もまた十分に理解できる」としながら、日本復帰後の沖縄において、米軍基地の存在に起因する環境破壊や事件・事故(人権侵害)が今なお後を絶たず、こうした人権侵害の構造の是正を求める訴えが、心情論として退けられた。本件は、「単に海を埋め立てることの是非にとどまるものではなく、沖縄県に新たな恒久的な基地を建設し、基地負担を永続化することの是非」にかかわることであり、地域住民の意思を無視して行うことが許されるものではない。人権保障の最後の砦である最高裁判所が、国と沖縄県との「対話」による解決の道を閉ざし、代執行への道を開いたことは、民主主義や人権保障の観点から重大な問題であることも忘れてはならない。

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