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犯罪被害者の同性パートナーへの犯罪被害者給付金支給

1 判決日・裁判体

2024年3月26日第三小法廷判決    

2 事案の概要(主な争点)

 長年生活を共にしてきた同性のパートナーを殺害された上告人が、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(犯給法)が規定する「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として遺族給付金支給を申請したところ、県公安委員会から上告人は同法所定の遺族に該当せず遺族給付金を支給しない旨の裁定を受けたことから、その裁定の取り消しを求めた訴訟。

3 関与した裁判官

⑴ 国民審査の対象となる裁判官

今崎幸彦(反対意見)

⑵ そのほかの裁判官

林道晴(多数意見・補足意見)、 
宇賀克也、長嶺安政、渡邉惠理子(多数意見)

4 判決要旨

⑴ 多数意見(林、宇賀、長嶺、渡邉)

 犯罪被害者と同性の者は、犯給法の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得ると判断して、上告人がその者に該当するか否かについて更に審理を尽くさせるため、原判決を破棄して原審の高裁に差し戻した。

⑵ 少数意見(今崎) ※国民審査の対象

 同性パートナーは犯給法の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当せず、上告を棄却すべきである。

5 人権・憲法の観点からの分析と評価

 本判決は、犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的としているなどと、犯給法の規定の趣旨を確認した上で、支給対象者として、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」を掲げているのは、民法上の配偶者に該当しない者であっても、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからであり、この精神的、経済的打撃の軽減の必要性は、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえないとしたものであり、適切な判断といえる。
 一方、今崎裁判官は、反対意見の中で、多数意見に対して、①生活保障の観点から、犯罪被害者の収入によって生計を維持していた子らは同性パートナーに劣後し、支給対象から外れることとなる可能性、②損害補填の観点から、民事実体法の権利との整合性の問題、③他の法令解釈への影響、④多数意見が同性同士の関係における「事実上婚姻関係と同様の事情」の考慮要素を具体的に明らかにしていないことなどを指摘している。
 そして、今崎裁判官は、同性パートナーシップに対する法的保護の在り方は、社会における位置づけや家族をめぐる国民一人一人の価値観にもかかわり、憲法解釈を含め幅広く議論されるべき重要な問題であり、犯給法をめぐる検討も、そうした議論の十分な蓄積を前提に進められることが望ましいが、そのような議論の蓄積があるとはいいがたく、多数意見は、現時点においては先を急ぎすぎているとして、同性パートナーは犯給法の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」には該当しないという反対意見を述べている。

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