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議員定数不均衡

Ⅰ 2021年10月31日衆議院議員選挙

1 判決日・裁判体

 最高裁判所大法廷令和5年1月25日判決

2 事案の概要 

 令和3(2021)年10月31日実施の衆議院議員総選挙における区割規定(令和4(2022)年改正前の公職選挙法13条1項、別表1)は、憲法に反し無効か。本件選挙当時、選挙区間での選挙人数の最大較差は、2.079倍(鳥取県第1区と東京都第13区)あった。なお、本件選挙については、同種訴訟につき、全国の高裁レベルで計16件の原判決があり、憲法判断については、いわゆる合憲状態判決が9件、いわゆる違憲状態・合憲判決が7件と分かれていた。

3 関与した裁判官

⑴ 国民審査の対象となる裁判官

今崎幸彦、尾島明(多数意見)

⑵ そのほかの裁判官

ア 多数意見

戸倉三郎、山口厚、深山卓也、林道晴、岡村和美、長嶺安政、安浪亮介、渡邉惠理子、岡正晶、堺徹

イ 少数意見

宇賀 反対意見(違憲・違法宣言)

4 判決要旨

 本件選挙は、平成29(2017)年選挙と同じく本件選挙区割りの下で行われたものであるところ、その後、更なる較差是正の措置は講じられず、本件選挙当時には、選挙区間の較差は平成29年選挙当時(1対1.979)よりも拡大し、選挙人数の最大較差が1対2.079になるなどしていた。しかしながら、新区割制度は、選挙区の改定をしてもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを当然の前提としつつ、選挙制度の安定性も考慮して、10年ごとに各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うこと等によってこれを是正することとしているのであり、新区割制度と一体的な関係にある本件選挙区割りの下で拡大した較差も、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されているということができる。本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれないし、その程度も著しいものとはいえないから、上記の較差の拡大をもって、本件選挙区割りが本件選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものということはできない(いわゆる合憲状態判決)。

5 人権・憲法の観点からの分析と評価

 平成28(2016)年の法改正により導入が決まった「アダムズ方式」による区割規定の見直しは、令和2(2020)年の国勢調査の結果に基づく令和4(2022)年改正法により初めて行われ、同年12月28日以後に公示される総選挙(今回の総選挙)から適用されることになっている。本判決は、「アダムズ方式」による都道府県への定数配分の見直しが行われていない段階での本件区割規定(従来の「1人別枠方式」を含む旧区割基準に基づく定数配分規定を含む。)について、従来のこれまでの基本的な判断枠組みをもとに、平成30(2018)年大法廷判決を敷衍することにより、違憲状態ではない(合憲状態)との判断を示した。平成30(2018)年大法廷判決については、平成28(2016)年改正法に基づく新区割制度とその本格導入までの間の格差是正措置として同改正法の附則の規定に基づき行われた平成29(2017)年の改正法による本件区割規定は、一体として、「投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価」し、このように「合理的な選挙制度の整備が既に実現されていた」ことから、いまだアダムズ方式による見直しが行われていなくても、平成23(2011)年大法廷判決以来指摘されてきた違憲状態は解消されたと評価したものであるとした。新制度の下では人口異動により較差が拡大しうることは当然の前提であるとし、そうした較差については、新制度の枠組みの中で是正されるものとの考え方を示したものであり、今後も参考になる判断を含んでいると考える。

Ⅱ 2022年7月10日参議院議員選挙

1 判決期日・裁判体

 最高裁判所大法廷令和5年10月18日判決

2 事案の概要

 令和4(2022)年7月10日実施の参議院議員通常選挙における、議員定数配分規定(平成30(2018)年改正後の公職選挙法14条、別表3)は、投票価値の平等憲法に違反し無効か。本件選挙当時、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は、3.03倍(福井県選挙区と神奈川県選挙区)あった。なお、本件選挙については、同種訴訟につき、全国の高裁レベルで計16件の原判決があり、憲法判断については、いわゆる合憲状態判決が7件、いわゆる違憲状態・合憲判決が8件、違憲・事情判決が1件と分かれていた。

3 関与した裁判官

⑴ 国民審査の対象となる裁判官

今崎幸彦(多数意見)

尾島明 (意見 違憲状態)

⑵ そのほかの裁判官

ア 多数意見

戸倉三郎、山口厚、深山卓也、林道晴、岡村和美、長嶺安政、安浪亮介、渡邉惠理子、岡正晶、堺徹

イ 少数意見

三浦守 意見(違憲状態・合憲)、草野耕一 意見(合憲状態)

宇賀克也 反対意見(違憲・無効)

4 判決要旨

⑴ 多数意見

 本件選挙当時、選挙区間の投票価値の不均衡は、「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態」にあったものとはいえず、「本件定数配分規定が憲法に違反する」に至っていたということはできない(いわゆる合憲状態判決)。立法府においては、「現行の選挙制度の仕組みの抜本的な見直しも含め、較差の更なる是正等の方策について具体的に検討した上で、広く国民の理解も得られるような立法的措置を講じていくことが求められる」。

⑵ 尾島明(意見) ※国民審査の対象

 本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、本件選挙当時、「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(違憲状態)」にあったと考える。令和2(2020)年大法廷判決が本件定数配分規定について違憲状態とはいえないと判断したこと(この判断については私も異論がない。)に鑑みると、本件選挙当時、まだ是正のための十分な期間が経過したということはできず、本件選挙までの期間内に是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとまではいえないので、本件定数配分規定が憲法に違反するとはいえないと考える。したがって、理由は異なるものの、結論は多数意見と同じである。

5 人権・憲法の観点からの分析と評価

 本判決は、議員1人当たり選挙人数の選挙区間の最大較差が3倍程度になっていた定数配分規定について、これまで踏襲されてきた基本的判断枠組みを前提とし、違憲状態ではない(合憲状態)との判断を示した。多数意見は、理由付けにおいて、「4県2合区を導入すること等を内容とする平成27(2015)年改正により、数十年間にもわたり5倍前後で推移してきた選挙区間の最大較差は3倍程度まで縮小し、平成24(2012)年大法廷判決等で指摘された著しい不平等状態はひとまず解消されたところ、同改正がされてから本件選挙までの約7年間、同改正後の定数配分規定及び本件定数配分規定の下で上記の合区は維持され、選挙区間の最大較差は3倍程度で推移しており、有意な拡大傾向にあるともいえない」と指摘している。平成27(2015)年改正によって実現した3倍程度の最大格差について、平成29(2017)年大法廷判決と令和2(2020)年大法廷判決は違憲状態ではないとしてきたが、その後の改正や議論の状況を踏まえると、本件選挙当時、「立法府の検討過程において格差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできない」(令和2年判決)という理由がもはや当てはまらなくなっているのではないか。

 この点、尾島裁判官がその意見において、多数意見の上記評価を問題視し、投票価値の平等を重視する立場から、「違憲状態(にあるが合憲)」という判断に踏み込んだ点は評価されるべきであると考える。

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