いま、自民党が提案している憲法改正草案は、世界の民主主義国家が共通に大切にしている考えを真っ向から否定するものです。JCLUは、自由と人権の擁護を旗印に60年以上活動してきました。その活動の基礎は、憲法にあります。その大切さを、自民党の憲法改正草案の根本的問題点を指摘しながらあらためて研究することにしました。
2014年12月と2016年7月の選挙の結果、衆参両院では、「日本国憲法」を改正しようと考える政党の議員の割合が3分の2を超え、憲法の改正が現実のものとなりました。
自民党は、2012年4月「日本国憲法改正草案」を発表し、10月には、その趣旨や内容を解説した「日本国憲法改正草案 Q&A」を公表しました。
憲法の改正には、国民投票が必要です。今、改正が行われるとすれば、この自民党案が国民投票の対象となるでしょう。
そこで、みなさんに、ぜひ、自民党「日本国憲法改正草案 Q&A」を読んでいただきたいのです。
私たちもじっくり読んでみました。
突っ込みどころは満載です。「えっ」と絶句して目が点になるところもあれば、民主主義陣営の政権党がこんなことを言っては日本が「世界の孤児」になってしまうと心配なところもあります。
そこで、大急ぎで、この自民党改憲草案で最も問題だと思う4点を、JCLUのQ&Aで指摘することにしました。
一つ目は、憲法とは何か、について根本的な理解が間違っていること。憲法は、「権力を縛る鎖」です。「国民を縛る鎖」ではありません。
二つ目は、人権とは何か、についても根本的に理解が間違っていること。人権は、憲法によって国から恩恵としてあたえられるものではありません。人間であることによって、すべての人が普遍的に、当然に持っている権利で、国家、政府等の公権力が侵してはならないものです。
どういうわけか、今の日本では「人権」という言葉にうさんくささを感じて反発する人がいます。「人権、人権」とうるさく騒ぐ連中は近所迷惑だ、周りの雰囲気を察して我慢するべきだ、みんながこうしようと多数決で決めたことには従え、と言われます。しかし、少数派の人、主流ではない価値観を持っている人の人権を、多数の人の価値観で制約してよいわけではありません。人権を持つ人々が暮らす社会では、お互いの人権が衝突したり、お互いの人権が守られる環境をつくるために譲り合ったりする必要も生じます。それでも、世界の民主主義国家の憲法は、たった一人の人権であっても、これを守ろうという考えを出発点に、その調整の方法を考えてきました。
三つ目は、「集団的自衛権」を認めることが引き起こす危険を隠し、現在の9条が日本にもたらしている平和の恵みを帳消しにしようとしていること。
自民党改憲草案は9条を改正して「集団的自衛権」を認めようとしています。しかし、「集団的自衛権」とは「自衛」という名前がついていますが、その中身は「軍事同盟」です。「集団的自衛権」を認めて他国と「軍事同盟」を結べば、第三国が地球の反対側で日本の同盟国に攻撃した場合でも、日本はその第三国に反撃することになります。そうなると、その第三国にとって日本は「敵国」となりますから、日本は、国際法上、直接、その第三国から攻撃されてもやむを得ないこととなるのです。
四つ目は、「日本の憲法改正手続が極めて厳しく、民意を反映するためにその条件を緩和しよう」という主張がおかしいこと。
各院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が改正案を発議し、国民投票を実施して、その過半数の賛成を要するという日本の憲法改正手続は、実は、世界の憲法改正手続の中で、「ひどく厳しい」ものではありません。あるとき多数派となった集団が安易に憲法を改正し、その結果、少数者の人権が侵害されたり、多数派少数派に限らず国民が共通に大事に思っている価値が簡単に否定されたり、国民一人一人が生きていくうえで極めて重要な利益が侵されたりすることがないよう、改正に慎重さを求め要件を厳しくすることは、世界の多くの国が採用している「智恵」です。
本当のところは、今の改正手続の緩和を先行させようと主張する人々は、自分たちの考える憲法改正に賛同者が少なく実現しそうもないと考えたので、要件の方を緩和しようとしているのです。シュートが決まらないのは、ゴールが小さすぎるからだと言って、ゴールを何倍にも大きくしようとしているのです。要件を緩和したあとに憲法のどこを改正しようとしているのかをよく見極めなければなりません。
一言で言えば、この自民党改憲草案は、世界の民主主義国家でいう「憲法」ではありません。JCLUのQ&Aが、みなさんの話のタネとなり、憲法を考える出発点となれば幸いです。
1年後、10年後の日本をつくるのは、私たちすべての国民です。悔いのないように、「日本国憲法改正草案」を真剣に考えましょう。
憲法審査会をウオッチしよう!
憲法審査会の議論をウオッチしましょう。
憲法審査会
声明・意見書
2013年
JCLU代表理事による自民党改憲案の問題点に関する解説
2013年2月21日午後12時30分から、JCLU代表理事らが外国特派員協会で自民党改憲案の問題点に関する解説を行いました。当日の模様は次のUstreamでご覧頂けます。
2007年
日本国憲法に関する調査特別委員会公聴会
庭山正一郎代表理事(2007年当時)が、憲法改正手続法の4月5日公聴会に公述人として出席、JCLUが発表した意見書をベースに、憲法改正限界と最低投票率導入について意見を述べました。
その後の質疑応答も含め、次の衆議院ウエブサイトでご覧になれます。
- 「日本国憲法に関する調査特別委員会公聴会」
2006年
2005年
出版物
岩波ブックレット「改憲問題Q&A」
改憲を現実の目標とする政権の誕生により、にわかに大きくなった「憲法は変えるべきだ」という主張に答えるための、JCLU渾身の1冊です。
「占領時代の押し付け憲法だから、改憲は当然」「権利には義務はつきもの。権利ばかりを主張する憲法はおかしい」「自衛権も否定する9条は変えるべきだ」「憲法改正を60年以上やっていないなんて、世界の趨勢に遅れている」…
そんな俗論に反論し、憲法とは何かを易しく語ります。
ぜひ、皆様の周りの方たちにもご紹介ください。高校・大学・市民勉強会のテキストにも最適です。
岩波ブックレットNo.891 「改憲問題Q&A」自由人権協会編 (本体価格580円)
出版物に関するご購入について、詳しくはこちらへ。
リンク
参考となるサイト
- 日本国憲法の改正手続に関する法律(総務省)
- 日本弁護士連合会「憲法改正論議が高まる中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話」
- 日本弁護士連合会「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」
- 日本弁護士連合会「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」
- 9条の会
自民党の「日本国憲法改正草案」を見てみましょう。